平成22年6月20日 発信

遺言状

 5月のある昼下がり、神妙な面持ちで部屋から出てきたフミさんが「先生、私の頼みを 聞いてください!」と車椅子を懸命にこいで管理者のもとへ駆け寄りました。そして、息 が上がって言葉にならないか細い声で「私をここ(ゆうゆう)で死なせてください!」と嘆 願するのです。突然の話に戸惑いながらも、事の重大さを察した管理者は、まずは本人 から詳しい事情を聞くことにしました。
 1号館に入居して一年半になるフミさんは、物忘れなどの認知症のほかに心臓が悪く ペースメーカを装着しています。また、腎臓の機能が衰えておしっこの量が少なく、体 内に水分が溜まってしまい、手足や顔が腫れる(浮腫)病気で病院にかかっています。家 族は一人息子が県外在住のため、隣県に住むお孫さん夫婦が面会に訪れるものの、同居 は難しく、帰る家もなく、ゆうゆうで暮らさなければならない現実がありました。
 そんな矢先、病状を知った息子さんが健康を案じてゴールデンウィークを利用して帰 省し、約2年ぶりに親子の再会を果たしました。ゆうゆうで一緒に食事をしたり、思い 出ばなしで盛り上がったり、フミさんにとって久しぶりに親子水入らずの生活を楽しん だ様子でしたが、同時に自分の健康やお金のこと、そして、息子と“今生の別れ”になる かもしれない不安は、確実に近づく自分の死をみつめる大事な時間でもあったのです。 身辺整理の必要性を感じたフミさんは、必然的に今回の行動に出たのかもしれません。 そんなフミさんの思いを文字に残しておくべきと考えた管理者は、『遺言状』いう形で残 すことをフミさんに提案しました。
 早速、紙とペンを用意して、フミさんの思いを書いてもらい、管理者ほか職員が立会 人になって見守るなか、「私こと ○○フミは、グループホームゆうゆうで最期を迎えた いので、よろしくお願いします」と書いて、日付と名前、そして、朱肉の拇印を添えて 遺言状が完成しました。フミさんにとっては20年ぶりに文字を書くという大仕事になり ましたが、こうして出来上がった遺言状が効力を発揮するかどうかは別にして、フミさ んの気持ちを文字に残して安心と納得させることが大切で、もし遺言状を見て思い出せ なかったとしても、あの時、あの瞬間の確固たる“意思表示”を残すことができれば、そ れでいいと思うのです。お陰でフミさんは、遺言状を書いた直後から薬による利尿効果 でむくみも軽くなり、心臓の調子も良く、快方の兆しがみえてきました。最近では、食 材の準備が日課だったフミさんお得意の“ゴボウのささがき”も復活し、ゆうゆうの食卓 には連日たくさんのゴボウ料理が 並ぶようになり、ゴボウが苦手な 管理者も苦笑いしながら一緒に食 べています。そんなフミさんの遺 言状が効力を発揮する日は、まだ まだ先のようです。
【写真】 遺言状を書き終えたフミさん。 気持ちの整理ができたみたいです。

職員研修『身体拘束について』

 5月22日に当ホームの身体拘束廃止委員会が企画した職員研修において、委員会の野 崎アイ子さん(2号館)が『身体拘束について』講義をしました。
 身体拘束の具体例を示しながら、拘束の定義と拘束しなければならない要件や手順、 実施中のルールなどをスライドを使って説明しました。また、職員への事前アンケート (疑問や質問)による質疑応答を通して理解を深めました。

身体拘束の研修について、職員の感想を抜粋して掲載します。
○身体拘束廃止のルールを作らなければならない看護・介護の実情がなげかわしい。
○初めての勤務先が精神科痴呆病棟で、オムツを外すのでつなぎ服を着せたり、部屋に 鍵をかけたり、車椅子から降りないようにひもで縛ったり、これが普通なのかな?と 自分も普通にやっていた。いま思えば、スゴイ事をしていたんだと思う。
○学生の頃、実習先の施設に認知症専用フロアがあり、全ての出入口に鍵がかかってい た。入居者の多くは鍵付きのつなぎ服を着せられて生活していたことを思い出した。
○「家に帰る」という人を引き止める理由が、職員の業務優先であってはならない。「ち ょっと待ってね」…その言葉の裏に業務があるとしたら、それこそ許してはいけない ことだ!拘束を意識することで対応は変わるし、自分自身が変わらなければいけない と思った。
○拘束に対する理解と認識、判断力がなければ、介護者の都合でエスカレートすると思 った。拘束の定義やルールをしっかり守り、「ストップ ザ 拘束」を目指します!
○拘束が精神的苦痛を与えることを痛感した。本人が嫌がる事を介護者の都合で押し付 けたり、待たせたり…反省するばかり。反面、どこまで許されるのか?その線引きが 難しく、戸惑う。
○身体ではないが、言葉の拘束をしてしまうことがある。言葉を選びながら声かけをし たい。
○拘束にも色々あることをこの研修を通じて理解できた。あとは実践あるのみ!
○ゆうゆうの入居者は幸せだなぁとつくづく思った。なぜなら、ここでは拘束を一切し ていないから。時々言葉の拘束はあっても、抑圧的・作為的ではなく、入居者も職員 を信頼しているし、両者の良い人間関係ができていると思う。

○「拘束」という言葉は嫌いだ!ゆうゆうで拘束は ないと思う。それは、職員の気持ちにゆとりが あるからだと思う。
○あれもこれも拘束になると思ったら、何も出来 なくなってしまいそうだが、理由をしっかり伝 え、納得してもらう事が大事だと思う。日頃の 声のかけ方やコミュニケーション、良い人間関 係づくりが大切だと感じた


ホームページを開設しました

 グループホーム「ゆうゆう」が所属する姶良・伊佐地区認知症高齢者グループホーム連 絡協議会では、今年4月にホームページを開設しました。このホームページは、協議会 の会員が運営し、姶良市、霧島市、伊佐市、湧水町の全39事業所の紹介と料金案内、重 要事項説明書、入居申込書、空室情報、地図(所在地・アクセス※Google連動)、外部評 価等を掲載することで、利用者家族や行政機関、介護支援事業所等との連携を図りなが ら、広く一般に情報を公開(提供)することを目的とします。また、最新の行政情報や介 護保険法の改正情報、Q & A と直接リンクすることにより、適正かつ健全な事業運営の 一助とするほか、事業所および職員相互の連携を図るための会員専用ページを設け、各 種講演・研修案内や連絡事項、事業所の連絡先などを掲載しましたので、ぜひ、URL の 登録ならびにご活用いただきますようお願い申し上げます。
http://airaisa-gh.jp/

姶良・伊佐地区認知症高齢者グループホーム連絡協議会とは…
 姶良・伊佐地区認知症高齢者グループホーム連絡協議会は、鹿児島県のほぼ中央に位 置する姶良市・霧島市と北部の伊佐市・湧水町にあるグループホーム39事業所で構成す る団体です。家庭的で落ち着いた雰囲気のグループホームで暮らす認知症高齢者の生活 支援を通して、家族や地域住民、医療・福祉・行政機関と連携しながら、自分らしく、 健やかに、安心して暮らせる社会を目指しています。

あくまき交流会(グループホームあもり)

 5月22日にグループホームあもりの入居者4名・職員3名と一緒にあくまき(ちまき) 作りをしました。名付けて『あくまき交流会』です。今年3月の午踊り(慰問)以来の交流 で、もち米を竹皮に包んで紐で結ぶ作業やレクリエーション・茶話会で親睦を深めまし た。中野 恵さん(管理者)手作りのアップルパイをいただいたお礼に、小山 恵美子さん (1号館職員)が描いた絵手紙と記念写真を贈呈して、次回の交流会を約束しました。

【編集後記】
 入居者の息子さんが昼食に手打ちうどんを振る舞ってくれた。 趣味が高じて四国まで 讃岐うどんの修業に出た、その“こだわり”に舌鼓。 麺の食感と出汁は別物だった。 食材や手間隙かけた味へのこだわりは人を喜ばせ、感動を与える。 介護も認知症や個別 性にこだわりたい。入居者のもとで介護の修業は続く。

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