軍手
8月のある朝、2号館の秋郎さんが日課の草取りを終えて泥まみれになった軍手を洗 っていると、「秋郎さん、おはようございます」と背後から女性の声。振り向くとそこに は馴染みの顔が微笑んでいました。「暑い中、ご苦労様です」「ホームの生活には慣れま したか?」と、さりげなく気遣う言葉に秋郎さんは思わず「ハ・ハイ!お陰様でだいぶ慣 れました」と返事したものの、どこか落ち着かない様子です。女性がひと呼吸置いて「私 を覚えていますか?」と問いかけると、一瞬ハッとした表情で視線をそらす秋郎さん。 それを察した女性は「じゃあ、また来ますね」と言い残して立ち去り、そのうしろ姿を見 つめながら軍手を握り締める秋郎さんでした。
今年3月からゆうゆうに入居する秋郎さんは、それまでデイサービスや訪問介護、配 食サービスを利用しながら、独り暮らしをしていました。女性はその時の担当ケアマネ ジャーで、自分がこうしてグループホームで暮らせるのは、ここを紹介してくれたこの 女性のお陰であり 、“命の恩人”だと秋郎さんは思っていました。それなのに、女性の名 前を思い出せなかった自分が情けなくて、ひどく落ち込んでしまったのです。その場に 居合わせた職員がその女性の名前を教えると、「あぁ~ナガタさんだった!」と胸のつか えが取れたようにいつもの笑顔が戻って一件落着…かと思いきや、突然赤と黒のマジッ クを持って来た秋郎さんは、何やら軍手に書き始めました。白い軍手は見るみるうちに 赤と黒の文字で埋め尽くされ、「これなら絶対(名前を)忘れません」と自信に満ちた表情 で軍手を眺めるのでした。そうなんです!秋郎さんは今度女性に会ったら、ちゃんと名 前が言えるように軍手に名前を書いてカンニングしようと考えたのでした。なるほど! 秋郎さんの発想と女性への純心な想いに心を打たれた職員と入居者は、惜しみない拍手 を送りました。秋郎さんは照れながら「こんな事しかできないけど、私の(感謝の)気持 ちを伝えたい」と顔をほんのり赤くして、軍手で隠すように笑みを浮かべるのでした。
数日後、職員がその時の模様を女性に伝え、改めて秋郎さんに会ってもらえるように お願いすると、快く了解してくれました。早速、秋郎さんが待つ2号館を訪れ「先日は 突然お邪魔してごめんなさいね」と前置きして、「私の名前を覚えてますか?」と核心の話 に入ると、事前に準備した例の軍手に手を通して、それを見ながら少し緊張した面持ち で「長田イツ子さんです!」と自信満々に答えると、女性は「私の名前を覚えていて下さ ったのね。嬉しいわ」と、そこまではよかった のですが、「でも…長田イツ子じゃなくて、永 田きぬ子です!」と永田さんの予期せぬ突っ 込みに動揺した秋郎さんは、恥ずかしさで赤 面した顔を両手で隠した軍手にはくっきりと “長田イツ子”の文字が…。
カンニングの軍手で永田さんのハートを掴 むハズだったのに、思わぬ失態を演じて掴み 損なった秋郎さんでした(笑)。
二渡施設長が勇退
当法人の介護老人保健施設「希望の里」の二渡久良施設長が、8月31日付で勇退されま した。先生は旧国立療養所志布志病院(志布志市)の病院長を退任後、平成元年に開設し た「希望の里」の施設長として22年間にわたり入所者の健康管理と職員の人材育成に尽力 されました。また、「ゆうゆう」開設当初から入居者の往診でお世話になり、聴診しなが ら一人ひとりの声に耳を傾けてくださいました。
そんな二渡先生に感謝とお礼の気持ちを伝えようと、9月18日に入居者と職員7名が ご自宅を表敬訪問し、額装した似顔絵を贈呈しました。二渡先生、長い間ご苦労さまで した。そして…ありがとうございました。
敬老会バイキング
9月16日は、20日の「敬老の日」を前に『敬老会バイキング』を開催しました。入居者の 皆さんには事前に食べたい料理を伺い、おでん・唐揚・ちらし寿司・うどん・そば・茶 碗蒸しなど上位10品を提供。どれも美味しいと好評で、アッという間に完食でした。
食事も一段落して余興に移り、人気アイドルグループ「AKB48」に対抗して!?人気 グループホーム「YUYU4」が登場。ちょっぴり旬を過ぎたママドル4人組が、娘から 借りたセーラー服に身を包み、歌と踊りを披露!激しい踊りの練習で膝や腰を痛め、ス カートがお腹の脂肪に食い込んで痛かった思いを歌に込めて、「会いたかった♪」をもじ った「あ~痛かった♪」の曲に合わせて舞台狭しと踊りました。無事に踊り終えて息絶え 絶えのママドル「YUYU4」に労いの?惜しみない拍手が送られ、合言葉の「萌え~」で 閉会。そして、最後に当法人から恒例の記念品が入居者一人ひとりに贈られました。
入居者の皆さん、長寿おめでとうございます。そして…これからもお元気で!
「私のアルバム」- やがてのために - ①
私たちの人生は自分自身が主人公であり、その時その時を一本の線に結んで生き ています。(中略)人間は皆、老いの時を迎え、いつの日か旅立っていきますが、こ のことは誰も避けることはできません。(中略)「家族に迷惑をかけたくない」「認知症 になりたくない」「寝たきりになりたくない」…誰もがいろいろな思いを持っていま すが、誰の手も借りずに最期を迎えることが難しくなってきています。認知症にな って介護が必要になった時、周囲の人の都合や思い込みで、自分らしい生き方その ものを諦めてしまうことはあまりにも悲しいことです。これまでどおり自分らしく 暮らし続けるためには、どこでどのように暮らし、誰といると居心地が良くて幸せ でいられるのか? “やがてのために” …これまでの自分の人生や思いを書き綴って 周りの人がその思いを大事にしてくれたら、最期まで主人公であり続けられるので はないでしょうか。(中略) 霧島市に暮らす皆さんがこれまでの人生を振り返り、こ の『私のアルバム』を作ることで、これまで以上に自分自身を大切にしながら、共生 共助のまち霧島市で、いつまでも自分らしく暮らしていけることを願っています。
霧島市『私のアルバム』作成委員会
本文は、去る10月22日に市民会館で開かれた「私のアルバム(認知症連携パス)キック オフミーティング」で紹介された『私のアルバム』の序文です。 趣味やこだわり、自分の半 生を自分史として記した『私のアルバム』を介護が必要になったり、認知症が進んで会話 ができなくなった時に役立てようという取り組みで、この日は作成委員のメンバーで当 ホームの村岡が登壇し、活用方法について説明しました。※10月29日付南日本新聞参照
http://www.373news.com/modules/pickup/index.php?storyid=27611
現在、介護サービスを計画する介護支援専門員(ケアマネジャー)とサービスを提供す る事業所がサービス担当者会議などで情報を共有していますが、こうした連携パスを活 用することで、認知症になっても最期まで自分らしく安心して暮らせる社会と本人を中 心に考えるケアの提供を目指します。
『私のアルバム』は、霧島市在住の65歳以上の高齢者を対象に配布される予定で、書き 方や使い方などについては、次回詳しくご案内します。なお、『私のアルバム』の表紙に 描かれているモデルは、当ホームに入居されていた故西村フミさんと職員の徳丸真弓さ ん(2号館)で、二人が見つめ合う写真を参考に村岡が描いた水彩画です。※西村フミさ んは、平成19年に百歳の天寿を全うされました。
去る9月29日に西村フミさんのご自宅を訪問し、ご家族の西村久光・清美さん夫妻に 『私のアルバム』と表紙作成の 経緯についてご説明しました。 そして、表紙の複製画(写真) を記念品として贈呈し、フミ さんの仏前にご報告しました。 村岡宏章(管理者)
ふれあい寄席(落語/南京玉すだれ)
10月8日に介護老人保健施設:希望の里で『ふれあい寄席』の慰問がありました。笑福 亭仁智さんの落語(写真下)と笑福亭智六さんの南京玉すだれ(写真上)が上演され、会場 は希望の里入所者、デイケア利用者、グループホーム入居者、職員の約100人の観客で満 員となり、日頃鑑賞する機会が少ない落語に会場は大きな笑い声と拍手に包まれました。 この日はゆうゆうの運営推進会議を予定していましたが、委員の皆さんを会場に招いて 入居者の視点で一緒に鑑賞していただきました。なお、笑福亭仁智さんは、暮らしの中 のトラブルを笑いで解決するNHK『バラエティ生活笑百科』の相談室長で、「四角い仁鶴 がまぁ~るくおさめまっせぇ」のセリフでお馴染みの笑福亭仁鶴さんの一番弟子で、福 祉グループ「上方落語喜講」を主宰し、弟子の智六さんらと全国各地の高齢者福祉施設で チャリティー寄席を開いています。 ※笑福亭仁智:吉本興業所属/上方落語協会理事
肉食系と草食系
肉食系と草食系…恐竜や動物の食性かと思ったら、最近は『草食系男子』『肉食系女子』 といった人間の性格に例えた表現に使われるらしく、男女や夫婦の関係も弱肉強食化し ているようだ。性格はともかく、食生活が野菜に偏って肉をあまり食べない高齢者は寝 たきりの原因になりやすい転倒骨折の危険性が、そうでない人に比べて3倍も高い!そ んな調査結果に驚いた。年を取ると若い頃に比べて肉や油っ濃い料理を食べなくなる話 はよく聞くが、嗜好が変わったというより、歯や内臓機能が低下したことも要因として 考えられるほか、転倒や骨折も体重や体型、筋力や運動能力、判断力や危険認識といっ た精神的要因もあるので、一概に結論付けるのは難しいけれど、野菜に偏りがちな草食 系高齢者はくれぐれも転倒にご注意ください d(^-^)
【編集後記】
毎年この時期、カミさんの実家に稲刈りの手伝いで帰省する。80歳を過ぎた義父は軽 トラで畑仕事に出るのが日課で、「田んぼはこれが最後」と去年も聞いたような気もする が、無事に稲刈りを終えてホッとする家族の心配をよそに、晩酌の勢いで来年もやる気 満々だ!生きがいのお手伝い…そう思いつつ新米をいただいた。